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C# とか,数学とか,社会とか.

数学科で社会人学生になって半年たった

今年の4月に東京理科大学理学部第二部(夜間部)数学科に入学してもうすぐ半年経つ(「半年たった」は正確ではない)ので,これまでのことを振り返って書きなぐってみようと思う.この半年ほんとうに色々なことがあったので,まとまりのない大変な長文になると思う. 「数学科ではいったい何を勉強しているのか」というのもよく聞かれることではあるが,あまりに長くなるのでそれについてはまた別に記事を書こうと思う.

入学当初の動機

入学当初の動機は,社会人学生という非常に厳しい道を選択するにしてはとてもぼんやりしていたと思う.たぶんほかの社会人学生はみんな数学が大好き,とか,統計やりたい,とか,そういうしっかりした動機をもって,ちゃんと準備をして入試を受けて入っているのだと思うが,私はそうではなかった.

私の入学の動機は,

  • 学部で夜間に理学の勉強ができる大学は理科大しかなかった
  • 仕事をしているうちに,関数型プログラミングとか,圏論とか,高度な数学に関連することに興味がでてきた
    • 数学の本を買ったけど何を言っているのかひとつもわからずとても悔しかった
  • 高専卒で大学に行っていない,という学歴がコンプレックス
  • 大学で教養を含めて,なんの分野でも良いからしっかり勉強をしてみたい
  • 一度でいいから「大学生」と名乗ってみたい

というような感じで,どうしても数学科じゃないといけないとか,そんな感じではなかった. ただ,物理とか化学なんかは正直ちゃんと勉強したことがないし,文系の分野に至っては高卒程度の知識もない. 現実的な選択肢の中で一番やっていけそうなのが数学科だった,というだけの話である(化学については毒とか薬について調べるのが大好きなので,少し可能性はあったかもしれない).

最後に決め手となったのは,理科大の公式サイトを見ていたときに見覚えのある名前が載っていたことだ. 入学してから2回しかお目にかかっていないが,数学科の主任の佐古先生は私の高専時代の数学の先生であった(当時あまり授業を真面目に聞いていなかったので,あまり授業の記憶はない). 最終的にはたったこれだけのことに運命的なものを感じて受験を決断するわけだけれども,今となっては本当に怖いことをしたものだと思う. 勢いで願書を出して,数週間で高専の数学をざっと復習して,面接も勢いでいろいろしゃべっていたら合格していた.

4月: 入学式も授業も中止になった

それでも合格後は数学科の先輩方が書いている文章を読んだりして,高専の数学の復習をしながら,授業はまだかまだかと楽しみにしていた.会社にも合格の報告をし,まあタスクの調整とかうまいことやってくれれば良いよ,頑張って,とあっさり認めてもらい,大学生になる準備は万全であった.そこでコロナである.4月は大学側も学生側もみんな混乱していて,結局4月は大学生らしいことをなにもせずにふつうの会社員として過ごした.

課題の山に溺れた春

5月になって,基本的にすべての授業をオンラインで行うこととなった.開始が遅れた分をどうするかというと,祝日や夏休みを減らして授業回数を確保するということになったようだ. 授業の形態としては

  • LaTeX で組版された PDF だけがアップロードされる講義
  • 毎回授業の動画がアップロードされる講義
  • 気まぐれでたまに zoom での同期授業をおこなう講義

というようにさまざまであったが,一つ共通していたのは「毎週課題が出される」という点であった.全部の科目で,毎週,そこそこの量の課題が出されるのである.もちろん提出期限はまちまちである.この課題をうまくマネジメントして,全部消化する,消化するには授業の内容をきちんと理解する必要がある,ということで膨大な時間が必要になった.

働きながらではとても時間が足りない,そう思った.しかも数学は課題だけこなしていればできるようになるものではない.大量の自習が必要である.もう課題の山に溺れて息ができなかった.こうしていくつかの(関門科目以外の)単位を落とすことになるのである.

自分と深く向き合った夏

何週間か経って,何かがおかしい,そう思いはじめた.同級生はみんなちゃんと課題を出しているみたいだ.社会人もいるし,現役で入った学生だってまさか一日中机に向かっている真面目な学生ばかりではないだろう.でも自分だけが明らかに落ちこぼれているのである.よく考えると昔から,「期限までになにかをやる」「タスクに優先順位をつけて,順序よくとりかかる」なんてことはできた試しがない.これはアレだ,なにか病的な原因があるんじゃないか.そう思って,持病の抑うつ症状が悪化していたこともあり,産業医の先生の紹介で精神科に通うようになった.

精神科では症状からしてうつではなく ADHD の症状であるとのことで,ほんとうにいろいろな検査を時間をかけて行った.いままで通っていた心療内科とは規模が違い,先生もベテランの精神科の臨床医で,心理士さんも多数在籍しており,デイケアなどにも力を入れている病院だった.日常生活や仕事,服薬に関するアドバイスや,自立支援制度の適用など,どれをとってもとても素早く良い対応をとっていただいている.

自分でも ADHD についていろいろと調べて,「ADHD を治す」のではなく,特性をうまく把握して付き合っていくことが大切であること,環境によってストレスを受けやすく,2次障害としてうつなどを発症することが多いことを知った.いままでの失敗などを振り返って,自分の得意なことと苦手なことをよく考えるようにしたが,他人と比べてなにが正常なのか,というのはよくわからなかった.

そこで役に立ったのが, WAIS-Ⅲという知能検査である.これはいわゆる IQ 検査というものであるが,ネットでお遊びで受けられるものとは大きく違う.まず検査項目がものすごく多い.ネットで受けられるものは WAIS-Ⅲ の 14 の下位検査項目のうちたった1項目だけである. ADHD の疑いがある者に対してこの検査を行う場合,単純な IQ (全検査IQ)ではなく,各検査項目の数値をみる.極端に項目間の差が大きかったりすると,そのアンバランスな部分によって困難が起きやすい.私の検査結果をみると,言語的な情報の理解や表現(言語理解),耳から得た情報の処理(作動記憶)の得点は平均よりも有意に高いが,実際に手を動かして行う作業などはあまり良い得点でなかった.とくに,計画を立てて問題を解決する力を見る「積み木」や柔軟で臨機応変な思考力をみる「組み合わせ」,素早い単純作業が求められる「記号」は平均以下の得点であった.

この検査結果は,普段から困難に感じていたことにも見事に合致した.普段から,

  • 計画をたてられない
  • 作業時間の見積もりが下手(すぐ終わると思っていたものが,作業が遅く終わらない)
  • イレギュラーな対応の困難さ
  • 単純作業の遅さ

には本当に困っていたので,これらを脳の特性として把握できたのは方針を決める上でも非常に役に立った. それ以外にも,

  • 忘れ物が多い
  • 先延ばしにする
  • 注意散漫である

というような ADHD の特性に当てはまることが多く,最終的には ADHD との診断書も出た.

ここで,自分の特性をまず正確に把握し,病院のスタッフさんと一緒に対策を考えていくという体制ができあがった.自分でもいろいろと工夫をして,勤務形態や時間配分も見直し,課題の遅れや受講の遅れはどんどん解消されていった.

後期が始まった現在

前期は上記のとおりボロボロであったが,これまでの失敗の根本的な原因を探り,対策を打つ,ということが確実にできているため,後期は希望をもって迎えることができた.病気のせいにして良いことと,ただ怠けているだけのことの区別もつくようになってきている.前者ならば病院で相談すれば良いし,後者ならばただ頑張れば良い.今週から本格的に後期の授業が始まり,前期の分の試験もいくつかあったが,いまのところ遅れも感じていないし,むしろこれまでの人生で一番きちんと勉強できている感じがする.試験の手応えや前期の成績からいっても,進級についてもとくに心配はしていない.前期の反省を生かして,真面目にコツコツやっていこうと思う.

今後に向けて

先日長期履修制度の申請のために,大量のシラバスを読みながら卒業までの受講科目を決定し,履修計画を立てたのであるが,シラバスを読むうちに代数学,数論,離散数学といった分野に興味をもち,そういった分野を中心に履修することにした.将来に学ぶ内容を考えたことで余計にモチベーションが高まったように思う.また,大学院への進学も視野に入れており,その選択肢にも少しずつ近づけていると思う.主治医にも「知能は高いので,努力すれば数学の研究者になるという選択肢も十分にあり,会社員のままでいるよりも環境的には合っているかもしれない」と言われているので,いろいろと検討しているところである. 将来どんな研究をするか,どこで暮らすか,どうやって生計を立てるか,わからないことだらけであるが,いまは全力で地道に数学の勉強を続けて将来の道をひらこうと思う.